東京台東区谷中に本社を置く高山医療機械製作所は、上山式マイクロ剪刀を代表とする脳神経外科用手術器具の世界トップブランドに成長し、現在30か国以上にその製品が輸出されています。そんな日本を代表する医療器具メーカーの目に留まった機械が、当社の取り扱うドイツ インデックス社トラウプTNLシリーズ。医療器具の開発・製造が欧米を中心に進むなか、日本で医療器具の精密加工に取り組む同社社長、高山隆志氏に話を伺いました。
-日本の医療器具製造における課題-
日本人向けにカスタマイズしない状況に、日本の臨床現場から不満が募る
「医療器具は欧米から輸入し販売しているのが現状。欧米は臨床が速い分、器具や機械も日進月歩で開発されています。しかし、インプラントも手術器具も、欧米人向けで日本人の体形に合わせて作ることはしません。高齢者に大きなインプラントを使えば背中の縫合が出来ず合併症のリスクが高まるといった声が臨床現場から上がってきます。それでも欧米メーカーは全く意に介さず、欧米のものをそのまま日本で販売しています。日本人向けにカスタマイズしない状況に、日本の臨床現場から不満が募っていきました。」
-国産機の医療部品加工の問題点-
難削材が多いため国産機を使えば様々な問題が出る
日本の医療機器分野が欧米から遅れをとる中、国産の機械での「加工」における問題点を指摘します。
「果たして、日本で作るとなると、それらの材料はチタン合金や難削材が多いため国産機を使えば色々な問題が出てきます。例えばサイクルタイムが非常に長くなる、連続運転では寸法精度が出ない、チャックが滑って衝突するなど。
この問題を解決するには、機械の改造、部分的に加工プログラムを組む、特殊工具を作る、油や刃物を変えるといった必要性が生じてきます。24時間2人交代は生産性も悪いうえ、社員も疲弊します。基本的に医療部品は多品種小ロットなので、必然的にプログラム数が多くなり、管理も大変になります。日本の機械は切削能力が低いため、ツールパスのプログラムが非常に多くなり、プログラムの確認とセットアップに膨大な時間が取られてしまいます。」
-欧米の医療部品製造の現場で選択される工作機械との出会い-
2タレット、ガンドリル加工、B軸搭載、複合加工能力を1台に集約させたトラウプ機
国産機で「加工」の解決が難しいのなら外に目を向ける必要があると考えた高山氏は、医療部品の精密加工で名高いヨーロッパに足を運びます。欧米の工作機械メーカーを視察する中で機械レイアウト、複合加工能力の優位性を認めた高山氏はすぐにトラウプ社のスイス型自動旋盤を購入することを決めます。
トラウプ機スイス型タレット式複合加工機TNL32外観
トラウプ機TNL32加工エリア
トラウプ機加工時間例 カタログより
「スイス型旋盤で良い機械がないかと探している時にYKTのホームページでトラウプを見つけました。2タレットのレイアウト、ガンドリル加工ができる、B軸が付いている、複合加工能力を1台に集約させたトラウプ機を実際に見るべく、すぐにメーカー訪問を決めました。すでにチタン合金のワークで最小0.7mm、深さ約60mmの穴をあけることに成功していましたので、これまでに培った加工ノウハウがあればトラウプ機を即生産に使えると確信し実機を見てからその購入に迷いはありませんでした。」
高山医療機械製作所の工場内
-加工機の安定性がもたらす現場の効率化-
検査の質の向上が会社としての精度を底上げ
欧州の機械導入は製造と測定に相乗効果を生みます。そのポイントは加工の安定性でした。
「ヨーロッパの工作機械の値段は日本の2~3倍しますが、加工が安定していれば少ない人数で高い生産性を求めることが出来ます。加工現場の人手を減らし、検査にその余剰を回すのです。OGP測定機を導入してからCpとかCpkの値で部品の生産管理ができるようになりました。検査の質の向上が会社としての精度を底上げします。自分たちで開発して作ったものを世界に流通させる。チタンの加工であればOEMで海外のメーカーへの供給も可能です。国境を越えて企業活動をしようとするとISO13485と9001の認証取得を求められ、厳しい品質管理のもとに工作物の客観的評価のプロセス構築が必要となります。工作物の測定の自動化、データ解析による測定の効率化を行い、図面と同じものが確実に作られていることを証明します。それらの結果、欧米メーカーのグローバルサプライヤに認定されました。」
-周りの会社でよく使われているからという理由で機械を選ばない-
悩んでいたことがヨーロッパの機械で解決できる
「こんな機能が欲しいと思うものは、すでにトラウプ機に搭載されている」ことに驚かされます。
「インプラントの製作だけでなく自社開発でできることはいくらでもあります。
より複雑な加工が出来るようになればドクターへの提案も広範且つ緻密になります。ドクターが我々に期待している部分はそこなのです。私はこの仕事に18歳で就き30年以上になります。その過程で人事の育成、工作機械の選定も行ってきました。周りの会社でよく使われているからその機械を選ぶのではなく、自分たちで既存の機械を散々使い倒した上で今何が足りないか、これから何が必要なのかをまず考える。自分たちの要望を日本のメーカーに伝えても作ってくれない。だからヨーロッパの機械を見に行ってみようと。自分たちが加工で悩んでいたことがヨーロッパの機械だと全部解決できる。この加工ができると、次はこういった加工も出来るよねって発想が広がってくる。」
高山医療機械製作所製医療用ワーク
-医療現場にマッチしたモノづくりと基礎技術力-
ドクターと一緒に製品づくり
日本の医療現場での課題に対して解決策を提案する一方、常に先を見据えた設備投資をすることで一歩先の提案が可能です。ただしそれを実現できるのは技術の蓄積でした。
「我々は常にドクターと一緒に製品づくりをしています。実際に手術に立ち会い、今後の医療に何が必要であるかを把握する。但し、そのニーズに限定することなく、更なる先駆けの見識をもって機械を選定します。仮にひとつの仕事が終わったとしても、他の製品を作ることが出来る。しっかりとした治具が作れること、汎用機で加工できることが基本。汎用機で精度を出せないのに、NC機で精度を出すことはできない。3軸の汎用機械をきちんと使えて、体に切削理論を叩き込む、それで初めてヨーロッパの機械の能力を最大限に引き出すことができるというのが私の持論です。
よく国内ではチタンは難しい、難削材では寸法がでないという話を聞きますが、それはやり方次第ではないでしょうか。当社では直交する平面度で3μm以内です。」
-同業他社との違いを生むのは、技術力をベースに独自のものを追求し続けること-
機械加工と人が手で仕上げるところをきっちり分けることが大切
「インプラントや医療器具は人の体の中に入るものであり、医者の手が操るものでもあります。小さな部品に色々な機能をもたせ、手術の安全性から精密さも重要です。医療はチタンが当たり前。64チタンもステンレスも様々な材料があり特殊です。その加工一つ一つが全部経験であって、切削加工に妥協はありません。機械でなんでも加工してしまおうという考えもありますが、私は機械で加工するところと人が手で仕上げるところをきっちり分けることが大切だと思います。そうした方向性が結果的に良かった。結局、そこにしか生き残るところがなかったということでしょう。良い加工には全部理由があり、切削理論が分かった上で、自分たちで設計しトライアンドエラーを繰り返す。手仕上げを行うところ、アッセンブリするところを残して部品形状でどれだけ追い込むか。独自の技術、独自の製品、独自の設計から他社との差別化が生まれます。」
高山医療機械製作所製医療用ワーク
高山医療機械製作所
社長 高山隆志氏
-欧州の工作機械を評価する高山氏-
しっかりした剛性を持ち精度も優れている
「欧州の機械は設計思想が違います。ユニットを軽くして本当に動力で切る。重さで切るわけではないのです。日本の工作機械は重量のユニットを動かすのに動力を使うため重さはあっても剛性がない。欧州の機械は決してごつくない。コンパクトで華奢ですが、しっかりした剛性を持ち精度も優れています。機械を見るとヨーロッパの人はやはり切削をよく知っていると感じます。」
独自の視点・行動力・技術力で日本だけにとどまらず、世界の医療マーケットに活躍の場を広げている高山医療機械製作所の現場では、今日も世界の市場で評価されるトラウプ機とOGP測定機が活躍しています。